母の時計 何十年もの間、ありがとう。おつかれさま。
母が大事にしていた時計がなくなった。
ハタチの頃に母の祖父、つまり私の曽祖父にあたる人…に買ってもらったという腕時計だ。母はおじいちゃんっ子だったうえに、時計自体もかなり良いモノだったらしく、何十年もの間、バンドを交換しながら大切に使っていた。
その時計が、なくなってしまった。
しばらく前のことである。
おそらく外出時に落としてしまったようである。長年大切にしていただけに、母はずいぶん落ち込んでいたようだった。
「こんなに何十年も一緒だったのに、どうして…」という気持ちもあったようだ。確かに、いろんな事を一緒に乗り越えてきた時計だったんだろう。
それからしばらくして、先日のことだ。
父が、母のあたらしい腕時計を買いにいってくれたという。
以前、母が大切にしていたのと同じメーカーのもの。以前は黒でシンプルな時計だったが、今度はダイヤをあしらった上品なデザインだという。
もうすぐ受け取りで楽しみにしているらしい。
母は「一つ捨てると一つ新しいのが入ってくる…ってホントだね」とつぶやいていた。
確かに、モノとの出会いや別れにはそういった流れというか、縁の循環のようなものがある気がする。
また、それとは少し異なるかもしれないが、「モノが持ち主をいつも守ってくれてる」というのは、わたしがいつも感じることである。
母が曽祖父から受け取った時計は、なくなってしまう少し前に、何十年もかけてついに役目を果たしていたのかもしれない。
今までありがとう、またいつか帰ってきてね。
少し遅くなったが、そんな気持ちを、何十年も頑張ってきた母の時計に贈りたい。
お読みいただきありがとうございました!