約束は果たされた
今日は約束の日。
10年前に結んだ、約束の日。
10年前、大学を出て散歩に出た。
それから何時間もはしゃいで歩き回り、迷子になり、帰ってきたのだが、今回はそれを再現できると理想だった。
ところがどっこい。
当時はどっち方面に行ったのか、全く覚えていなかった。
かろうじて、覚えいるシーンは3つだけ。
子供と遊んだ公園、後半に辿りついた大通り、そして、帰り道を示した大学の文字。
そのほかで、覚えていることはほとんどない。
とりあえず大学を出てみることにした私たち。
ひとまず直進でしばらく歩いた。
「…全然覚えてないけど、こっちじゃない気がする」
「…わたしもそう思う。右に曲がってみようよ」
ひとつ曲がると、だいぶ違った風景に。
「なんとなく、こっちの方がそれっぽいよね」
「うんうん、そんな感じ」
また、そのまましばらく歩いた。
その後も、ただなんとなく、という感覚に合わせて、何度か角を曲がって、しばらく歩いた。
すると、公園についた。
最初は、目を見張った。
ここは、ほんとに、公園、か?
たしかに、公園を目指してきた。
でも、あんな適当な道順で、ほんとに辿りついたと言うのか?
ただの広場では?
公園違いでは?
頭の中で疑いの言葉が廻る。
中に入ると、そこには、
見覚えのある、ブランコがあった。
わたしたちは歓喜した。
わたしたちは、それだけで満たされた。
10年前と同じ場所に、10年後も変わらず、2人でいる。
記憶は覚えていなくても、なんとなくの感覚を、カラダは覚えていて、きっとここへ来れた。
それは、なんて素晴らしいことだろう。
くっきりしたお月様と、ぱらぱらと散りばめられた星空の下、わたしたちは嬉しくなって、いっぱいブランコをこいだ。
いっぱいいっぱい、ブランコをこいで、いっぱいいっぱい、楽しい話をした。
その後も、散歩は続いた。
そのまたしばらく後、2つ目の記憶である大通りを見つけた。
そのあと、最後の大学の文字だけは見つけられなかった。
けれど、最後の最後、わたしたちが戻ってきた地点は、あるお店の目の前だった。
そのお店は、今日のことがぜんぶ終わったら、行ってみようかと話していた候補のひとつだった。
でもよく思い出してみたら、約束のあの日の夜、最後にここへ来たんだった。
不思議なこともあるものだとくすくす笑いながら、そこでゆっくり過ごすことにした。
10年越しの約束は無事に果たされ、私たちは次の約束を結んだ。
次の約束が果たされるかは、まだわからない。
ただ、今日という日が迎えられたこと、10年越しの約束を果たせたことに、2人とも心から満足した1日だった。
10年間いつもそばにいてくれた彼女に、ありがとう。